学生のリアルな声から見える「働き続けたい職場」とは
近年、Z世代(1990年代後半〜2010年前後生まれ)の若手社員が職場に増えています。厚生労働省「令和6年労働経済動向調査」によると、多くの企業が人手不足を感じており、Z世代の採用や定着をめぐる課題は、企業にとっていま最も大きな人材マネジメントのテーマのひとつです。
私は社会保険労務士として企業の労務管理を支援する一方で、大学や専門学校で非常勤講師としてキャリアデザインや就職対策の授業を担当しています。
授業では、就職活動を控えた学生たちと日々向き合い、彼らが「どんな職場で働きたいのか」「仕事に何を求めているのか」を直接耳にしており、学生と話したり、課題に取り組む様子を見ていると、彼らの価値観や行動には明確な傾向があると感じます。
それは、Z世代の価値観の多様さと、職場環境への繊細な感度です。
「安定」と「自己成長」を両立させたい世代
学生たちの多くは、「安定して働きたい」という思いを持ちながらも、「自分らしさを活かしたい」「成長を実感できる仕事がしたい」と語ります。
つまり、Z世代は安定志向でありながら、同時に自己実現志向でもあるのです。
企業の採用活動では、待遇や福利厚生だけでなく、入社後のキャリア形成支援を具体的に示すことが求められています。どんなスキルを身につけ、どんな形で成長できるのか――この見通しを明確に提示できる企業ほど、若手に選ばれやすい傾向があります。
早期離職の背景にある「情報の非対称」
厚労省の調査でも、若手社員の離職理由として「仕事の内容が合わなかった」「将来の見通しが持てない」といった回答が多く見られます。
授業で学生の相談を受けていると、「希望した企業にインターンに行ったが、思っていたのと違った」という声を耳にすることも少なくありません。
この“ギャップ”を防ぐには、採用段階でできるだけリアルな情報を伝えることが大切です。職場見学にとどまらず、年齢の近い現場社員と話す機会を設けたり、インターンシップで実務を体験できるよう工夫したりと、「見える採用」を意識することで、入社後のミスマッチを減らすことができます。
定着のカギは「対話」と「承認」
Z世代は上司との距離感に敏感で、指示や命令よりも“対話”を重視する傾向があります。非常勤講師として学生を見ていても、「意見を聞いてもらえる」「努力を認めてもらえる」と感じたときに、安心して前に進める姿が印象的です。
職場でも同じです。1on1ミーティングや定期的なフィードバックを通じて、社員一人ひとりの声を受け止める仕組みをつくることで、信頼関係と働きがいが生まれます。評価の場が“対話の場”になることが、Z世代にとっての安心材料なのです。
柔軟な働き方の「意義」を伝える
柔軟な働き方の制度(リモート勤務、副業、時差出勤など)は、今や多くの企業で導入されています。
しかし重要なのは、制度そのものよりも「その制度がなぜあるのか」「どう活用すれば働きやすくなるのか」を丁寧に伝えることです。
制度の背景にある“思い”を理解してもらうことで、社員の納得感と主体性が高まり、エンゲージメントにつながっていきます。
Z世代とともに育つ職場へ
Z世代の採用・定着を考えることは、単に若手対策にとどまらず、企業文化をアップデートする機会でもあります。社会保険労務士として制度設計を支援する立場からも、非常勤講師として学生の声を聞く立場からも感じるのは、「仕組み」と「対話」の両立がこれからの鍵だということです。
若者のリアルな声に耳を傾けながら、誰もが安心して働き続けられる職場づくりを、企業とともに進めていきたいと思います。

