年金制度の見直しにより、企業側においても、多くの新しい取り組みや戦略が必要となってきています。
今回の年金法改正の概要は大きく3つに分かれています。
本日は、60代以上の方の働き方に大きな影響を与える「在職老齢年金制度の見直し」について取り上げます。これは、高齢者の活躍を社会全体で後押しするための大きな一歩です。
Ⅰ.働き方に中立的で、ライフスタイルの多様化等を踏まえた制度を構築するとともに、高齢期における生活の安定及び所得再分配機能の強化を図るための公的年金制度の見直し
1.被用者保険の適用拡大等
2.在職老齢年金制度の見直し
3.遺族年金の見直し
4.厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
5.将来の基礎年金の給付水準の底上げ
Ⅱ.私的年金制度の見直し
Ⅲ.その他
■ 改正の背景と目的
急速な高齢化のなか、高齢者の活躍は人手不足解消の大きなカギとされています。
しかし現行制度では、「働きすぎると年金が減る」という理由で就業調整を行う高齢者が多く、企業にとっても柔軟な人材活用が難しい状況でした。
今回の法改正は、【働く高齢者の味方に】になり、こうした課題を解消するためのものです。
■ 主な改正内容(2026年4月施行)
在職老齢年金制度とは、65歳以上の方が働いて得た収入と年金の合計が一定額を超えると、年金の一部または全部が支給停止となる仕組みです。これまで、その基準額は「月50万円」でしたが、2026年4月から「月62万円」に引き上げられます。
項目 | 現行制度(2024年度) | 改正後(2026年4月〜) |
---|---|---|
支給停止基準額(月額) | 50万円 | 62万円 |
💡支給停止基準とは?
賃金と年金の合計がこの金額を超えると、年金の一部が減額・停止されます。
→ 改正により、より高収入でも年金を全額受け取れる人が増えます。
■ 改正による影響(試算)
- 年金全額を受け取れるようになる高齢者:約 20万人
- 支給停止対象額の減少:約 1,600億円の縮小
- 全体としての年金給付水準への影響:▲0.2%
今回の見直しで、高齢者が就業調整をせずに、意欲に応じて働ける環境が整うことになります。年金制度としても持続可能性を保ちながら、60代後半以降も働く人がより報われる制度へと進化しています。年金額への影響はごくわずか(▲0.2%程度)でありながら、多くの人にとってメリットがある改正といえるでしょう。
■ 6 0 代後半における厚生年金受給時の働き方
働き方の内容 | 割合 |
---|---|
働かない | 29.0% |
年金額が減らないように時間を調整して会社等で働く | 31.9% |
年金額が減るかどうかにかかわらず会社等で働く | 17.2% |
会社等で働かず、自営業主・自由業等として働く | 9.7% |
合計(何らかの形で働いている人) | 58.8% |
全体の約6割が、60代後半でも何らかの形で働いているという実態がこの表から見て取れます。
現行制度では、年金を減らさないように労働時間を調整する人も多く、「もっと働きたいのに働けない」という声もありました。今回の改正により、現役並みの賃金を得ながらも年金を全額受け取れる人が約20万人増える見込みです。
■ 企業にとってのメリット
課題 | 解決されるポイント |
---|---|
「年金が減るから働けない」と言われる | ⇒ 支給停止の基準引き上げにより、フルタイムでも働きやすく |
高齢人材の確保が難しい | ⇒ 年金受給と両立可能で、採用・継続雇用の選択肢が拡大 |
労働時間を調整する必要があった | ⇒ 「就業調整」せず、能力に応じた活用が可能に |
■ 今後の対応ポイント
✅ 高齢者の採用・継続雇用戦略の見直し
✅ 人件費・労働時間管理における制度対応
✅ 社内説明や個別相談体制の整備(特に60代従業員向け)
高齢者雇用がますます重要となるなかで、今回の改正は「年金を理由に働けない」を減らす好機です。事業主としても、制度理解と戦略的な対応が求められます。
ご相談や制度対応の説明会なども承りますので、お気軽にお問い合わせください。
参考:社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要