2024年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が、第217回通常国会で可決・成立しました。
この改正法の大きな目的は、変化する社会や働き方に対応し、多様なライフスタイルに合った年金制度を構築すること。そして、誰もが安心して老後を迎えられるよう、所得再配分機能を強化し、私的年金の選択肢も広げていくというものです。
概要は大きく3つに分かれています。
Ⅰ.働き方に中立的で、ライフスタイルの多様化等を踏まえた制度を構築するとともに、高齢期における生活の安定及び所得再分配機能の強化を図るための公的年金制度の見直し
1.被用者保険の適用拡大等
2.在職老齢年金制度の見直し
3.遺族年金の見直し
4.厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
5.将来の基礎年金の給付水準の底上げ
Ⅱ.私的年金制度の見直し
Ⅲ.その他
本日は注目されている改正ポイントのひとつ「被用者保険の適用拡大」について取り上げます。
「被用者保険の適用拡大」ってどんな内容?
これまで、パートやアルバイトなどで短時間働く方の中には、厚生年金や健康保険に入れないケースが多くありました。しかし、今回の改正ではこの壁が大きく変わろうとしています。
■ 改正の狙い
- 働くことでより手厚い保障(年金や医療)が受けられる人を増やす
- 加入条件をわかりやすく、シンプルにして、自分のライフスタイルに合った働き方を選びやすくする
- 人口減少社会における人材確保にもつなげる
主なポイント①:パートでも厚生年金に入りやすく
これまで厚生年金に加入するには、以下の条件が必要でしたが、今回の改正では、1から3は撤廃、4は段階的に撤廃していきます。
- 月収8.8万円(年収106万円相当)以上 → 撤廃
- 週20時間以上勤務 → 撤廃
- 学生は対象外 → 撤廃
- 従業員51人以上の企業であること → 段階的に撤廃
● 賃金要件の撤廃
- 最低賃金が全国的に1,016円以上になるタイミングで撤廃予定(目安として、週20時間働けば賃金要件を満たす水準)
- 最低賃金の減額特例対象者は、申出によって任意加入が可能
● 企業規模の要件も緩和
より多くの人が対象になるよう、企業規模に関する条件も段階的に撤廃されていきます:
従業員数 | 適用開始時期 |
---|---|
51人以上 | すでに適用済み |
35人超 | 2027年10月 |
20人超 | 2029年10月 |
10人超 | 2032年10月 |
10人以下 | 2035年10月 |
主なポイント②:個人事業主にも広がる
これまでは、農業や飲食業など、一部の個人事業所ではたとえフルタイム勤務でも厚生年金の対象外でした。
今回の改正では、
- 農業・林業・漁業・宿泊業・飲食サービス業などで
- 常時5人以上を雇用している個人事業所も
- 2029年10月から対象に
ただし、施行時点で存在する事業所については、当面は適用除外されます。
主なポイント③:負担を軽減する支援策も!
● 被保険者への支援
新たに保険の適用対象となる小規模企業のパート労働者については、社会保険料による手取り減少を和らげるために、3年間限定の保険料軽減措置が取られます。
→ これは、いわゆる「就業調整」(手取りが減るから働くのをセーブする行動)を減らすための工夫です。
● 事業主への支援
労働時間の延長や賃上げなどを行い、労働者の収入アップを図った事業主には、キャリアアップ助成金を通じた支援が予定されています(2025年度中開始)。
最大で1人当たり75万円の助成が検討されています。
今後に向けて
このように、年金制度の改正は、働き方や雇用の在り方にも大きく影響します。
今回の「被用者保険の適用拡大」は、「誰もが安心して働ける社会」「納得して年金を受け取れる社会」への第一歩です。
今後も、他の改正点(在職老齢年金や遺族年金の見直し、私的年金制度の改革など)についても、少しずつご紹介していきます。
参考:社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要