今回は令和6年5月に公表・成立した年金関係法改正から、今後の「脱退一時金制度」の変更点と中小企業が押さえておきたいメリットについて整理します
脱退一時金制度とは?【制度の概要】
- 脱退一時金 とは、日本で公的年金(国民年金・厚生年金)に加入していた外国人が、短期間の就労・滞在後、年金受給資格を得る前に帰国する場合、納付期間に応じて支給される一時金です。
- これを受給した場合、これまで納付した年金加入期間は全て消滅します。つまり、後日日本に戻って働いても「合算」できません。
【対象者】
- 日本国内で国民年金・厚生年金保険の被保険者だった外国人(公務員など一部を除く)
- 6カ月以上の年金納付期間がある
- 日本を出国し、年金受給資格(10年以上)を持たないこと
※2025年(施行日)以降は、再入国許可を取得して出国した場合は一時金の支給不可(一定期間内)
※最後に被保険者の資格を喪失した日から2年以内に請求を行う必要があります
法改正のねらい
- 年金制度の「空洞化(短期滞在による未受給)」を防ぎ、将来日本に定住し年金を受け取る選択肢を後押し
- 帰国時一括給付(脱退一時金)を公平に拡大し、労働者の資産形成機会を保証
- 外国人材の「長期定着化」への後押し(途中帰国での“預け金の回収”抑止)
2025年 法改正のポイント
① 支給要件の見直し(再入国許可の場合)
- 外国人労働者の長期滞在増加・帰化等の多様化策を受け、「再入国許可」での一時帰国中は脱退一時金を認めないというルールに変わります。
- 例えば「技能実習」→「特定技能」に切り替える転籍や、進学等で日本に戻る前提での一時帰国時は脱退一時金の請求が現実上できなくなります。
- 再入国許可を使わず母国に戻り、許可有効期間を過ぎた場合には受給可能です。
② 支給上限の引き上げ(最大8年分へ)
- 今までは最大5年間の加入分しか計算対象になりませんでしたが、
「特定技能」等を踏まえ最大8年間まで支給上限を引き上げます。 - 背景には、技能実習(3年)+特定技能1号(5年)で、「最長8年」日本で就労可能なルートが一般化してきた事情があるためです。
- 5年超の滞在外国人比率も2020年6%→2023年18%に拡大。
中小企業にとってのメリット
人材定着・確保の観点から、以下のようなメリットがあります。
- 長期雇用がしやすくなる!
- 8年滞在が現実的になることで、教育コストや現場ノウハウの蓄積が最大限活かせます。
- 支給上限の引き上げは、外国人労働者の経済的なメリットを向上させ、長期雇用へのインセンティブとなります。
- 採用活動で有利になる!
- 帰国時に8年分の一時金が受け取れるため、労働者にとって「魅力的な職場」となりえます。
- 外国人労働者への福利厚生の充実
- 改正内容を適切に周知することで、外国人労働者からの信頼を獲得し、企業イメージ向上に繋がります。
- 再入国許可期間中の脱退一時金受給が制限されることで、将来的な年金受給を視野に入れた長期的なキャリア形成を支援できます。
- グローバル人材の活躍促進
- 外国人労働者が安心して日本で働くための環境整備を後押しし、グローバル人材の活躍を促進します。
- 法令遵守が会社イメージアップに直結!
- 外国人従業員にも新制度を正しく説明・案内でき、労務管理の透明性や信頼性の向上につながります。
まとめ
脱退一時金制度の見直しは「外国人雇用の新時代」に対応した重要なアップデートです。
正しい知識と会社運営のヒントをつかみ、採用戦略に活かしましょう!
参照:厚生労働省「年金関係の法改正の概要(令和6年5月)」PDFダウンロード